高齢者に多いパーキンソン病の症状と介助時の注意点とは?

高齢者に多く、7月に亡くなった永六輔さんも罹患していたパーキンソン病。
難病に指定され、一度発症したら完治は望めず、生涯付き合っていくことになる病気です。
介護の仕事に就いていると、この病を患った利用者様のケアをする機会もあるため、介護士はパーキンソン病に関する知識と、介護のコツや注意点を頭に入れておく必要があります。
今回は、パーキンソン病の原因や症状、治療について学ぶとともに、介護職として心がけたいケアのポイントをお届けしましょう。

パーキンソン病とは

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1817年にイギリスのジェームズ・パーキンソン医師によって発見されたパーキンソン病。
脳内にある中脳の部分が変化し、運動機能がスムーズに働かなくなる病気です。
50歳を過ぎたころから年齢と共に発症が増え、患者数は100万人あたり100~150人ほどで、現在、日本には約15万人の患者がいるといわれています。
パーキンソン病であることを公表している著名人も多く、アメリカの俳優マイケル・J・フォックスや元プロボクサーのモハメド・アリ、小説家の江戸川乱歩や夏目漱石、芸術家の岡本太郎、映画評論家の小森和子などがよく知られています。

パーキンソン病がいったいどんな原因で起こるのか、そのメカニズムはまだ解明されていませんが、患者の脳では、中脳の一部が変性し、そこで作られるドーパミンが減少していることがわかっています。
ドーパミンは人が見たり聞いたり触れたりして得た情報を脳内で伝達する物質で、全身に指令を出して体を思い通りに動かしています。そのドーパミンが減ってしまうと、運動の調節がスムーズにいかなくなり、体の動きに障害が現れるのです。
パーキンソン病では、さらにほかの中枢神経、自律神経なども侵され、精神や自律神経の障害がみられることもあります。
では、代表的な症状を見ていきましょう。

パーキンソン病の4大症状

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パーキンソン病の症状には、

(1) 安静時振戦
(2) 無動
(3) 固縮
(4) 姿勢反射障害

という4つの代表的なものがあります。

(1) 安静時振戦

じっとしていると手や足が震える症状。何かの動作をすると震えは止まります。
1秒間に4~6回の規則的な震えで、ほかにも指先で何かを丸めるような動きをしたり、足はかかとで床を打つような動きになるのが、パーキンソン病の特徴です。

(2) 無動

動作がとてもゆっくりになり、動きが小さくなります。歩幅が小さい小刻み歩行や、歩き始めに足が出ないすくみ足などがよく見られます。また、顔の動きも乏しくなるので、仮面のような無表情になります。声が小さくなったり、書く字がだんだん小さくなるなども、無動の症状のひとつです。

(3) 固縮

腕、脚、胴などの筋肉がこわばってしまい、スムーズに動かすのが困難になる症状。無意識に筋肉がこわばり、力が抜けずリラックスすることができません。他人に固くなった手足の曲げ伸ばしをしてもらうと、関節がカクカクと歯車のような抵抗感のある、不自然な動きをするのが特徴的です。

(4) 姿勢反射障害

ある程度、病気が進行してから現れます。
体のバランスが悪くなり、姿勢を保つことができなくなります。体が傾くと元の姿勢に戻ることが難しく、首を前に突き出し、前かがみの、膝を曲げた前傾姿勢となります。
このため、歩き始めると前のめりに加速して止まれないという、歩行障害も現れます。

運動以外に、こんな症状も

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パーキンソン病には、これまで上げた4大症状のほかにも多彩な症状がみられます。

●精神症状

うつや意欲の低下、睡眠障害など

●自律神経症状

便秘、冷え、むくみ、頻尿、多汗、立ちくらみなど

●認知症

幻覚、幻聴、認知機能障害など

●痛み、しびれ

振戦や固縮で筋肉や関節が疲労し、腰痛・関節痛・筋肉痛や、しびれなどがみられる

●嗅覚障害

パーキンソン病患者の7割にみられるといわれ、運動障害の前に現れることが多く、早期発見の手掛かりになる

パーキンソン病の治療

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現在、パーキンソン病を完治させる治療法はありません。
ただし適切な治療により、症状を抑えたり、病気の進行を遅らせることは可能です。
パーキンソン病の治療は主に「薬物療法」「リハビリテーション」「環境整備」の3本柱で取り組まれています。

<薬物療法>

パーキンソン病治療の中心であり、運動症状などを効果的に抑えて、改善します。
減少したドーパミンを薬によって増加させる「ドーパミン補充療法」が用いられます。
ただし、運動合併症などの副作用が起こることもあり、慎重な投薬と経過観察が重要です。

<リハビリテーション>

リハビリテーションも、パーキンソン病の改善に大きな役割を果たします。
とくにウォーキングや体操、ストレッチなどの運動は、脳の血流をよくし、神経の伝達をスムーズにするので、パーキンソン病の症状を緩和するのに効果的。また、全身の運動機能の維持・向上につながり、症状の進行を遅くします。うつや睡眠障害、認知症などにも良い影響を及ぼします。

<環境整備>

バリアフリーなど、住環境もパーキンソン病患者にとっては重要な要素です。
「小刻み歩行」「すくみ足」「姿勢反射障害」などの症状により、転倒しやすいため、安心して過ごせる住環境が求められます。日常生活そのものがリハビリになるパーキンソン病患者には、積極的に活動できる安全な環境づくりも欠かせないポイントといえます。

(1) 必要以上に手を出さない

日常生活の動作がスムーズにいかなくなるパーキンソン病患者。ケアする側としてはつい手伝ってあげたくなりますが、それが行き過ぎると、患者さんのできることまで手を貸してしまい、日常のリハビリの機会を奪うことに。
危険がなく、本人にできることであれば、時間がかかっても手を出さず、見守るようにしましょう。

(2) 歩行の見守りは厳重に

パーキンソン病では、「小刻み歩行」「すくみ足」「すり足歩行」「前方突進」など、歩行にさまざまな障害が出ます。またバランスの障害もあり、姿勢が保てなくなるのも前述したとおり。そのため、歩行の際にはつねに見守る必要があります。
患者さんはほかの利用者と比べ非常に転倒のリスクが高いうえ、とっさに身を守れないので、ケガも重症になりがち。
介助の際には、対面して両手を持つ「手引き歩行」が良いでしょう。初めの一歩が出にくかったり、逆に歩き出すとだんだんスピードが出たりするので、介護士は「1、2、1、2」とリズムをとり、一歩ずつゆっくり一緒に動いてあげるのがコツです。

(3) 服薬は正しく行う

パーキンソン病に服薬治療は欠かせません。しかし治療薬は副作用があり、吐き気などの胃腸症状や、幻聴や幻覚といった妄想なども起こります。また、急に断薬すると、悪性症候群という命にかかわる状態になる危険もあるため、服薬管理はしっかり行う必要があります。
本人任せにせず、症状や副作用の有無をチェックして薬を調整したり、医師に相談したりといったサポートを心がけましょう。

(4) 嚥下障害に要注意

重度の患者さんには嚥下障害がみられます。それを把握せずに無理に食事介助をすると、誤嚥性肺炎になるリスクも。そのため、パーキンソン病患者の食事介助はほかの利用者よりもゆっくりと行います。たびたびむせたり、うまく飲み込めていないときは、自己判断せず、医師や看護師に相談することが大切です。

(5) 妄想は否定せずうまくそらして

薬の副作用により、誰かに見られているなどの幻覚や、悪口を言われているといった幻聴など、さまざまな妄想が起こります。患者さんからそのような訴えがあったら、否定したり笑ったりせず、まずは受け止めるようにします。そのうえで、別の話題に変えたり患者さんの好きなものを見せるなど、気持ちをそらして落ち着かせてあげましょう。

(6) 好きなことや趣味の話で信頼関係を築く

日々、病気と向き合っている患者さんにとって、周りの人との温かいコミュニケーションはとても嬉しいもの。病気とは離れた、昔の話や趣味の話などをとことん聞いてあげるのも、いい気分転換になり、ストレス解消につながります。体調のいいときを見計らって、患者さんの興味のある話題を出し、いろいろと質問してみましょう。話しているうちに表情が和み、お互いへの親しみも、信頼関係も深まっていくはずです。

(7) 非常事態にそなえ、職員、外部機関、家族が連携を

患者さんのかかりつけの医療機関、ケアマネジャー、ケースワーカーとは、いつでも連携して動けるよう、しっかりした体制を作る必要があります。また、患者さんの家族にも、こまめに様子を伝えるようにします。周囲の関係者が現状を把握し、連携することで、万が一の事態にも迅速に対応することができるのです。

まとめ

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患者さんにとって、パーキンソン病は一生付き合っていく病気です。
そして、薬やリハビリでできるかぎり進行を遅らせながら、一日一日を大切に過ごすことで、病気とうまく付き合っている患者さんも多くいます。
そんな患者さんに寄り添い、笑顔でサポートすることを忘れなければ、その気持ちはきっと相手の心に届くことでしょう。
介護士として、パーキンソン病に関する正しい知識を持ち、ハートのこもったケアを心がけていきたいですね。

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